「先生、それは愛だと思います。」完
「……いえ、多分その時はもう、なんとも思っていないと思います……。もっと強くなれていると思うし、大学で学びたいことがたくさんあるから、思い出すことも無くなりそう……」
そう返すと、高橋先生は少しだけ口角を上げて、〝だったら勉強を応援することは、文ちゃんの力になれるね〟と言った。
なんだかその言葉に、高橋先生の見えない優しさの全てが詰め込まれている気がして、胸がいっぱいになってしまった。
どうしよう、先生。
私、このままじゃ本当に先生のことが好きになってしまうよ。
先生という職業だからときめくとか、禁断の恋だからスリルがあるとか、大人だからかっこよく見えるとか、そんなんじゃなくて、高橋先生という一人の人間を愛してしまいそうだよ。
「……文ちゃん、おいで」
私の気持ちがバルーンのように膨らんでいくのを見透かしたかのようなタイミングで、先生が私を呼んだ。
私は、危険だと分かっていながらも、先生の元へ向かう。
先生が、黒板の前にある教壇に座って、私に手を差し伸べた。
私は、床に膝をついて、座っている先生の太ももに手を置いた。
「……今日の夕飯、何作るの?」
話しながら先生は私の頬に優しく触れる。電流が走ったように、体に甘い痺れが生じたのを感じた。
「母が大量にトマトを買ってきたので、トマトパスタにします」
「そっか、じゃあ俺も、それにしようかな」
「真似しないでください」
「駄目なの?」
駄目なの? と言ってから、先生は私の唇に唇を重ねた。
まるで付き合って二年目の恋人たちがするような、自然なキス。
頬に触れた先生の手を撫でながら、私は目を閉じて、先生のキスを受け入れた。