「先生、それは愛だと思います。」完


「送るよ。乗って」
「え、い、いいです大丈夫です」
「文ちゃん、俺は教師として君をこんな時間に置いて帰るわけにはいかないんだ。先生を困らせたくないなら乗って」

高橋先生の鋭い言葉に、私は言葉を詰まらせてしまった。それから、渋々先生の車に乗り込んだ。
「いい子だ」
先生は、静かに笑ってから車を発進させる。
車の中はほんのり煙草の臭いがしたけど、先生は一本も煙草を吸わなかった。
結局、私と先生の関係はどうなってしまったのか分からないまま、車は私達を乗せて走り続けた。

 * * *

そんなこんなで、新学期をむかえてしまった。
高橋先生は本当にすぐ近くの進学校へ異動になり、クラスの担任は全身灰色のおじさん先生になった。

高橋先生の異動を知った生徒の中には、ショックを受けて泣き崩れるほどの子までいた。校内で先生を見かけることがなくなり、なんだか学校全体の色がワントーン下がったように感じる。

「文ちゃん、先生いなくなっちゃったね! もう私なんの楽しみもないよー!」

友人のユイコは、顔を覆って泣き真似をしてみせた。
彼氏がいるにも関わらず若様ラブだったユイコは、ショックを隠し切れていない様子だった。
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