「先生、それは愛だと思います。」完

雨上がりの衝撃


まるで、生ぬるくて底の無い海に、ずぶずぶと溺れていくようだ。
先生は、私を手懐ける方法を知っている。私も、先生に手懐けられていることを知っている。
そうと分かっていて、どうして私は彼の手を取ってしまうのだろう。

先生の柔らかくて少し冷たい唇の感触が、今も残っている。
先生のキスは、頭の中を先生でいっぱいにさせるような、そんなキスだった。
頭の片隅で〝これでいいのかな〟なんて気持ちが一欠片残っていたけれど、そんな考えすら吹き飛ばすような威力を持っていた。

高橋先生は、麻薬のような中毒性を持っている。
人に関心が無いふりをして、人の心の隙間に入ってくることが上手い。
きっとそれは、〝本気の恋〟にするつもりはないから、できることなのだろう。
そのどこか恋愛に達観した様子が、沢山の女の子の欲望を擽ってきたのだろう。

強烈に〝この人を手に入れたい〟と思わせる何かを、高橋先生は持っている。
私は今、まんまとその深みにハマってしまっているのだ。

「では、今日の講義はここまで。課題は必ずやってくるようにね」
仙田先生は今日も、真夏だというのに長袖のシャツを着ていた。
袖を巻くることも、ボタンを開けることもせずに、きっちりと薄いグリーンのシャツを着ている。
丸い眼鏡の奥の優しい瞳が、私と隣の性悪生徒――祥太郎君の顔を捉えて、ゆっくりと細められた。
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