「先生、それは愛だと思います。」完
「二人とも、そろそろ仲良くなれたかな?」
そんなわけない。
私は心の中で秒速でツッコミを入れた。
祥太郎君は、今日は珍しく私服姿だ。青葉学園の生徒ということは、高橋先生のことも知っているのだろうか。
それだけは聞いてみたいけれど、この人といる時間を一分一秒でも短くしたいので無理だ。
「祥太郎は無愛想だけど、話してみればいいやつだから、文月さんも怖がらずにね」
「は、はい……」
怖がってるんじゃないんです仙田先生、私は彼を嫌ってるんです、心から。
しかしそんなことが言えるはずもなく、仙田先生はにこっと笑って先にマンションを出て行ってしまった(いつも仙田先生は予定をぎゅうぎゅうに入れているため退出が早い)。
先生が帰った後も、ここに残って自習をするのもOK、食事をしてから帰るのもOKという、なんとも自由な塾である。
私は今日ここで食事をしてから自習をする予定だったので、すっと席を立ちキッチンに向かった。
祥太郎君はいつも通り黒いリュックにさっさと教材を詰め込み、何も挨拶を交わさずに部屋を出ていこうとしている。
ふとその後ろ姿を見ると、リュックの蓋が閉まっていないことに気付いた。