「先生、それは愛だと思います。」完
「……お母さんの帰りを待ってる時に、よく読んでた」
沈黙が続いたので、ぶっきらぼうにそう答えると、彼はパスタを巻く手を止めた。
「……何、親どっちも働いてんの?」
「ううん、お父さんは三歳の時に亡くなった」
さらっとそう告げると、彼は少し戸惑った様な表情をして、小さな声で〝ふうん〟と呟いた。
悪いことを聞いてしまったと思ったのかな。意外とそういう一面もあるのか……なんて思ってパスタを食べていると、彼は思わぬ発言をした。
「俺も母親いないよ。浮気して離婚した」
「あ、ああ、それまたヘビーな……」
「父親は仕事人間だから、小っちゃい頃は帰宅までの待ち時間によく漫画読んでた」
「そうなんだ……でもちょっと分かる」
彼にもそんな時間があったのか。そう思うと、ついほんの少しだけ親近感がわいてしまった。
「あのさ、この前の」
「この前の?」
「……いや、なんでもない」
彼は何か言いかけた様子だったが、すぐに口を閉ざした。
クラスの不良も話せば意外とふつうであるとはこのことか。
私は彼の意外な一面に少し驚きつつも、山盛りのパスタを口に運んだ。
洗い物を終え、マンションを出ると、外はいつのまにかどしゃぶりだった。
予報ではただのくもりだったのに、バケツをひっくり返したように雨が降っている。
とんでもなく不機嫌な様子の空を見て、祥太郎君はちっと舌打ちをした。
「パスタ食わずに帰るべきだった……お前雨女だろふざけんな」
「なんてこと言うの八つ当たりしないで」
「くそ、止むまで待つか」
「なんか明日の朝まで止まないみたいだよ」
スマホのお天気予報アプリを見て呟くと、彼は低いトーンで暴言を吐く。
「……お前ふざけんなよ」
「何で私!?」