「先生、それは愛だと思います。」完
本当に大切なもの *高橋side
バケツをひっくり返したような激しい雨の中、道端でキスをしている男女がいた。
ワイパーが雨を何度も何度も除け、その男女をはっきりと映し出してはまた雨で滲んでいく。
繰り返されるその情景を車の中で見ながら、俺は信号が青になるのを待っていた。
「俺から言うべきかな……」
呟いた独り言は、何も荷物が置かれていない寂しい車内に響くだけであった。
* * *
〝文ちゃんに好きな人が出来たら別れる〟。
それが俺が彼女に出した条件だった。
もしあの男のことを文ちゃんが好きじゃなくても、彼から好意を寄せられているのだとしたら、俺という存在は邪魔になる。
だとしたら俺からあの時のことを聞いて、文ちゃんを自由にしてあげるべきじゃないだろうか。
「……でも、なんて言ったらいいんだ、なあ、大福」
ソファーに寝転がりながら大福に呼びかけると、大福は高速で餌を突き出した。
……八月後半に入り、夏休みはそろそろ終わりを迎えようとしている。
文ちゃんと〝お試し付き合い〟のような契約を交わしてから、もう五カ月が過ぎようとしていた。