「先生、それは愛だと思います。」完
全てが面倒くさすぎた俺は、楠からアイスを受け取ってカゴに投げ入れた。
え、本当に買ってくれるの? と、なぜか強気だったのに急に戸惑いだした楠を無視して、俺は会計を済ませさっさと店内を出た。
もちろん彼女もついてきたので、チョコミントアイスをほら、と雑に渡した。
「先生優しい、麻衣超感動した……」
「そうか、この恩は一生忘れるなよ。あと離れろ」
「ねぇ、先生の家どこ? この辺なの? それ部屋着だしこの辺に住んでるってことだよね?」
「あのなあ、とりあえず腕は掴むなって……」
駐車場で楠の腕を少し鬱陶しげに振り払おうとしたが、それは一つの声によって遮られた。
「高橋先生……?」
そこには、財布だけ持ってポカンとした顔で突っ立っている私服姿の文ちゃんがいた。
頭が真っ白になる、というよりも真っ先に、〝これは面倒な展開になってきたぞ〟という気持ちが脳を支配した。
「あ、もしかして高橋先生の教え子?」
「楠いいからとりあえず離れろって、これ以上他の生徒に見られたら職を失う」
「いいじゃん先生、別に先生になりたくて先生になったわけじゃないし、他にも仕事のあてあるんでしょう?」
なんでこいつそんなこと知ってんの、怖。
顔には出さなかったが、俺は少し動揺していた。
しかし文ちゃんはそれどころじゃないようで、ギクシャクした笑みを浮かべて頭を下げた。