「先生、それは愛だと思います。」完
「お、お取込み中、すみません……」
「いえいえー、またね」
引きつった笑顔を浮かべている文ちゃんに、楠は敵意むき出しの笑顔で手を振る。
「楠お前は黙ってろ。文月、こいつは俺の今の生徒でー」
「あ、大丈夫です」
「え、何が大丈夫?」
冷静なツッコミを入れたが、文ちゃんはもう一度ぺこっと頭を下げてからコンビニの中へとそそくさと入っていった。
やばい……とんでもなく面倒な事態になっている気がする……楠のせいで。

げんなりした表情で楠を見ると、彼女はニコニコしながら〝牽制成功〟と言い放った。

女の怖さに改めて身震いをしていると、楠はやっと俺の腕から離れ、計算高い笑みを浮かべる。
「先生ってさ、一生独身タイプだよね。今まで本気で恋したこととかないでしょう」
猫の様に丸い瞳で俺を見上げ、挑戦的な口調で自分の推理を語る。
「自分に好意がある人を適当に引っ掻き回して、遊んできたんでしょう」
あながち間違ってはいなかったが、俺は適当に流して楠に背を帰ろうとした。そんな俺の背中に向かって、彼女は更に問い詰めた。

「先生って、ずっと一人で生きていきたいの?」

その言葉に、思わず振り返ると、彼女は真剣な瞳で俺を見つめていた。
それから、私そういう人のこと、放っておけないんだよね、と舌なめずりをするように、付け加えた。
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