「先生、それは愛だと思います。」完

「ごめんな、心美っ……」

……心美、こんな俺とはもうあまり関わらない方が良いよ。
きっと、あんまりいいことはないはずだから。
人間としてこんなに欠落した俺とは、距離を置いた方が良い。
何かあったら、できることは協力するけど、でもそれは、俺じゃない方が良い。母さんは世間体ばかり気にしてるところがあるけれど、心美のことを愛しているのは事実だから、きっと助けてくれる。
親父も、心美が俺と話していると機嫌が悪くなるだろう。
心美はその意味をあまり理解していないようだったけど、もう親父の目には、俺は悪い菌のようにしか見えていないんだ。
でも、そう思われても、仕方ないんだ。

俺は、空っぽな人間だから。

空っぽだから、こんな風に心美のことを傷つけてしまっていたことに、気付けなかった。


「ごめん、ごめんな……」
俺はまるで、自分を責め立てるように何度も何度も謝った。謝る事しかできなかった。
俺は、今まで一体何人の人を傷つけてきたのだろう?
美里の泣き顔を思い出して、俺はもっと胸を痛めた。

〝あなたは結局、一生ひとりなんだわ……〟。

きっと俺は、この先も誰かを本気で愛せることなんて、ないと思う。
親父の浮気や、ヒステリックな母を幼い頃から見てきたせいで、どこかいつも恋愛に対して達観している自分がいる。
そんな自分がいる限り、結局ひとりを望んでいる限り、俺は、相手を期待させる様な恋愛をしてはいけない。

もうこれ以上、自分の無関心さを理由に、誰かを傷つけたりしたくないから。


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