「先生、それは愛だと思います。」完
「誠君、気づいていないだろうけど、俺が守ってあげなきゃ、って瞳をしてたよ」
「心美が何を勘違いしてるのか知らないけど、文月はただの」
「似てるもんね、顔、美里さんに」
――その言葉に、俺は一瞬頭の中が真っ白になった。
すると、心美は、やっぱり、という様な表情をして、俺の胸を一度強く叩いた。
「お母さんと二人で頑張ってる文月先輩に、美里さんを重ねたの? 今度は幸せにしてあげたいとか、思ったの?」
「……心美、違うから」
「そんな理由であの人に靡かないでよっ、心美にはまだ誠君が必要なのにっ……」
違う、重ねてなんかいない。同情なんかしていない。罪滅ぼしのような気持で、文ちゃんに近づいたわけじゃない。
そんなつもりじゃなかったけど、心美に指摘された途端、激しく動揺している自分がいた。
もし、無意識のうちにそんな理由で文ちゃんを〝放っておけない〟と思ったのなら、俺は、本当に最低な人間だ。
「目を覚ましてよ、誠君っ……」
心美に胸を叩かれながら、俺は数年前のあの言葉を思い出していた。
〝誠は、誰のことも傷つけていないと思ってるの……?〟
また、俺は無意識のうちに、ひとりの人間を、傷つけてしまっていたのだろうか。
だとしたら、俺は一体、どこまで最低でクズな人間なんだろう。
俺の文ちゃんへの気持ちは、一体、なんだというのだろう。