「先生、それは愛だと思います。」完

「え、それって、どういうこと?」
心美ちゃんの言葉にすかさず質問をすると、彼女はオレンジジュースをもう二口飲んだ。
「兄は、いつもそうなんですよ。誰とも未来を約束しない。その場限りみたいな恋愛しかしない。あなたもその一人ってことです」
「学生の時から……?」
「ずっとそうですよ。でも、一人だけ引きずっている人はいるみたいだけど」
「引きずっている人……?」
その言葉の続きを聞くことが、怖かった。でも、聞かなければならない。そんな気がしていた。
心美ちゃんは私の不安そうな顔を見て、一瞬話すことを躊躇ったようだったが、言葉を続けた。

「似てるんですよ、文月先輩、その人に」
「え……、似てるって、顔が……?」
「顔と、家庭環境が」

そんなこと、初めて聞いた。
じゃあ先生は、私のことを気にかけてくれたのも、ただ元カノに似ているから?
私自身に興味を持ったわけじゃなくて、私に元カノを重ねて見ていたから?
ショックで何も言えなくなった私に、心美ちゃんは少し同情しているようだった。
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