東の彦
雨の中の葬儀
夏も終盤。
直、日のくれる薄暗い夕刻時、夏の残り香ものこさずに、
はやくも秋の足音が聴こえてきそうな冷たさ混じる雨のなか、
くろい学生服を身に纏った少年が、玄関先に掲げられた鯨幕をみつめ、佇んでいる。
凛とした顔立ちだが、まだすこしあどけなさが残る せんの細い風貌と、
肩をすぎる ながい髪から少女のようにも見える。ながい睫毛に滴る雨粒をはらいもせず、
ただ、それを重たそうに目をほそめる。
憂いに満ちた表情で少年は、とおくを、ただ、とおくを見つめ続けていた。
だが、それもながくは続かなかった。
玄関口の塀に背をつけたと思うと、地面へと崩れおちていった――――。
そこへ同じ年ほどの少女が通りかかった。
少女は崩れこんだ少年を見つけると、直様かれに近づき、かれの火照った額に手を当てる。
荒い息遣いへと変わっていく少年を背に抱え少女は、少年宅へと担ぎこむ。
少女は辺りをみわたし少年を介抱できそうな部屋を探す。
すると、居間から奥の客間の部屋まですべての襖が取り除かれ、
宴会が終わった直後のような風景がひろがっていあた。
食事を終えたお膳に酒瓶があちらこちらに転がり、法要座布団が散乱していた。
この辺りの村では未だ自宅で冠婚葬祭を行うところが多い。
この少年宅も例外ではないようだ。
客間の奥の祭壇に飾られた遺影には少年の両親にしては、すこし年配に、
祖父母にしては、すこし若い夫婦が写っている。
少女は遺影に軽く会釈をすると、葬式の跡の残る一階を離れ、二階へと繋がる階段を上がっていった。
少女は少年のものらしき部屋へと入ると 少年を横たえ、ぬれた学生服を脱がし、布団を敷きだした。
ここまでの作業をなんら躊躇いなくを素早くこなす。
少年を担いだことといい、大人なしそうな手足の細さ感じる風貌とは裏腹に、
そのまなざしからは 少女のどっしりとした逞しさがにじみ出ていた。
手馴れた手つきで介抱を続ける少女、
ゆらゆらと夜の帳がゆれ始めるころだった。

< 2 / 7 >

この作品をシェア

pagetop