麗しき星の花
　弟の玲音は最近になって、料理を担当することになりました。

　我が橘家では、自分で出来ることは自分でやる、という家訓のもと、家のお手伝いをさせられます。

　何の苦労もなく育った人間に、良い音が奏でられるわけがない、というお祖父様のお言葉から来たものらしいのですが、確かに色んなことを経験することは大事だと思います。

　ヴァイオリニストであるお父様は主にヨーロッパ方面に演奏旅行に出ていて、お母様もそれに付き添っているので、週に一回ほどしか会えません。だから子どもの私たちには早くから自立してほしいという思いもあるのかもしれません。私も玲音も、その期待に応えようと頑張っているのです。

　ですが……。

　お料理担当は、本当は私のはずだったのです。

　去年の冬から留学生のリィシンさんとリィファさんをお招きしているので、はりきって作っていたのですが……いつの間にかお掃除担当になっていました。

　要には、「貴女はお母様と同じ、努力の天才なのよ。だからゆっくりのんびり、やっていきましょうねぇ。根気が大事よ、諦めない心を育てるのよぉ～……」とブツブツ言いながら、やんわりとキッチンから追い出されました。

　今はコンクールやお客様のこともあり、私の許容量を超えるのでは、と心配してくれたのかもしれません。私は大丈夫ですが、周りに心配をかけるのも良くありません。ここは年長者の言うことを聞いておきましょう。

　お料理担当は玲音に取られてしまいましたが、折をみてリィシンさん、リィファさんのためにお菓子を焼くつもりです。お二人はいつも修行をなさっていますから、きっとお腹も空いていると思うのです。腕によりをかけて、頑張って作りますよ。

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