麗しき星の花
 暗闇の中に、確かにする気配。それがゆっくりと近づいてくる。いつでも動けるように油断なく相手を見据えているところに、激しい雷鳴。

 窓から降り注いだ雷光が、気配の主の姿を浮かび上がらせる。

「っ……!」

 リィは、恐怖に打ち震えた。





 きゃあああああああああああ!





「っ、リィ!?」

 シンは何かを感じて立ち上がった。

 書庫までは距離があるため、リィの声など聞こえるはずもない。

 しかし聞こえた。

 何かあった。

 それは双子ならではの直感だった。

 弾丸のように部屋を飛び出し、廊下を駆ける。地球は──天神は安全だと聞いていたし、この橘邸も完璧なセキュリティに守られていると聞いていたから、少し油断してしまったか。

 どんなときでも警戒を怠ってはいけなかった。それを後悔しながら走っていくと、胸元の銀の指輪が白く光って、前方に細い光を勢いよく伸ばした。

 もし迷子になったら、強く念じろ──そう両親が言っていた、精霊王の力が込められた指輪だ。片割れのことを強く願えば、居場所を教えてくれる。

 やはり何かあったのか。

 シンは焦燥に包まれながら白い光の導くまま走る。

 そうして古い洋館の闇に包まれた廊下まで辿りついたとき、それを見た。

 青白い雷光に照らされた、人ならざる者を。

 濃い陰影を浮かび上がらせる細っそりとした不気味な顔。それを覆う乱れた長い髪の隙間から、落ち窪んだ目が見える。深淵に引きずり込まんとする闇を抱えたそれは、恨みがましくシンを捉えた。

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