麗しき星の花
「こんばんはリィシンくん、久しぶりだねぇ。どうしたのかな、リィファちゃんは……」

 シンの腕の中でぐったりしているリィを見て、奏一郎は心配そうに眉を寄せる。

「あ、ああああのっ、大変なんだ! さっき書庫の前で、幽霊が出て! それで!」

「幽霊?」

 慌てるシンとは対照的に、奏一郎はのんびりした様子で首を傾げる。

「危ないんで避難してください! あ、あと、妹を頼みます! 俺、あいつやっつけてきますんで!」

 そう捲し立てるシンに、奏一郎はしばらく何か考え込んでいたようだったが、ぽん、と手を叩いて何度か頷いた。

「ああ……幽霊。確かに、そう見えるかもしれないね」

「……え?」

「彼のことだろう?」

 奏一郎はシンの後ろに視線をやった。振り返ると、先程の幽霊がすぐ後ろに立っていた。

「ぎゃ───出た───!!!」

 思わず叫んでしまうシンに、奏一郎が笑った。

「はははは、すまない、驚かせてしまったようだねぇ。会うのは初めてだったね。彼は僕の執事、北山だよ。幽霊ではないから安心したまえ」

「……え?」

 そう言われ、恐る恐る振り返る。

 ボサボサの長い髪を顔を張り付かせた執事、北山は全身を覆うほどの黒く長いマントを羽織っていた。

 顔色が悪く、更に痩せこけているので、落ち窪んだ目は死んだ魚のようでもあるのだが……確かに、よく見れば生きた人間だった。そもそも、拳が受け止められた時点で幽霊ではないと気づくべきである。

< 123 / 499 >

この作品をシェア

pagetop