麗しき星の花
「さて、一仕事しないといけませんね」

 更紗と別れた後、着物の裾を整えながら琴音はあたりを見回した。

「玲音は先にお食事している? あちらにリィシンさんとリィファさんもいらっしゃいますから……」

「ううん、僕も琴音ちゃんと一緒に行くよ。今日、琴音ちゃんをエスコートするのは僕の役目だからね?」

 にこっと微笑む弟に、琴音もくすりと笑う。

「分かりました。お願いしますね、小さな騎士(ナイト)さん」

「小さな、は余計だよー」

 ぷう、と膨らむ頬がかわいい。

 くすくすと笑いながら目当ての人物を探して歩いていると、演奏に聞き惚れている人垣から少し離れたところに、見知った顔があることに気付いた。

 思わず足を止めると、向こうも琴音に気付いたようだ。あからさまにギョッとしたような顔になり、一瞬だけ目をそらした後、ぎこちない笑みを向けられた。

 挨拶をすべきか……少し迷っていると、玲音がスっと琴音の前に出た。

「わあ、一条さんもいらしてたんですねー?」

 人懐こい笑みで一条──一条隆明に向かって声をかける玲音。それで挨拶をせずにはいられなくなった琴音もにっこり微笑んだ。

「ごきげんよう、一条様」

「あ、ああ……本日はお招きいただきありがとうございます」

 一条隆明は小さな子どもたちに向かって、軽く手を上げて挨拶した。

「ふふふー? 今年は藤さんの番だから、それは藤さんに言うべきだよー?」

 ふわふわの髪を揺らしながら、玲音が言う。そんな弟を琴音はハラハラしながら見守った。

「そ、そうだな。これは失礼した」

 一条隆明も軽く声を上げて笑う。……かなりぎこちないが。

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