麗しき星の花
「更紗お祖母さまがお茶を立ててるんです。一条さんも、挨拶がてら是非どうぞー?」

「ありがとう。では、そうさせてもらおうかな」

 そう言い、一条隆明は玲音たちとすれ違おうとする。その間際に。

「あとでお父様にも声をかけておきますね?」

 玲音が笑う。

「え……」

 一条隆明の顔が引きつった。

「一条さんには、お母様が本当にお世話になったみたいですからね……? 是非ご挨拶したいと、常々申しておりますよ?」

 にっこり、と微笑んでいるはずの玲音の目は笑っていなかった。子どもの高い声ながら、徐々に低くなっていく声とともに、暖かな春の良き日に何か黒いものが漂いはじめている。

(まあっ……黒い! 私のかわいい玲音がいつの間にこんなに黒く!)

 琴音は戦慄した。そして一条隆明は更に戦慄した。小さな子ども相手に何も言い返すことが出来ず、逃げるように去っていく。

「れ、玲音……少し言いすぎですよ。もしお母様にまた何かあったら……」

 琴音は心配するが。

「大丈夫だよー、会社の方には手を出していないんでしょう? いつでも潰せるぞ、っていう雰囲気出してるだけでー。だから止めは刺してないよ? ああいう手合いは生かさず殺さず飼い慣らす……それがお父様の教えだからね……」

(お父様ー! 玲音になにを教えているのですかー!)

 最近目につく玲音の腹黒さは父のせいだったのか、と琴音は演奏中の父へ批難の目を向けた。

「でも、隆明様をつついて一条会長を引っ張ってこられたら、困るのはお父様ですよ? あまり大人をからかってはいけません。いいですね?」

 琴音が言い含めると、玲音はにこぉっと愛らしく微笑んだ。

「うん、分かったよ、琴音ちゃん」

 本当に大丈夫だろうか……。少し弟の将来を不安に思う姉の横で、弟はこっそりと悪い笑みを浮かべていた。

< 151 / 499 >

この作品をシェア

pagetop