麗しき星の花
(琴音ちゃんはお父様の怖さをわかってないなー)

 母の存在はすでに和音から一条総帥に伝えてあるし、また一条総帥からの謝罪も受けている。橘と一条の関係は良好なのだ。ただ、三男を除いて。その状況がどういうことか、隆明も理解しているだろう。

 和音だけでない。御三家筆頭柊真吏、そして大御所藤更紗。更には父親まで敵に回すほど、彼は愚かではなかった。そして小物だった。

(僕も将来はお父様みたいになろうーっと)

 琴音の手を取ってエスコートしながら、玲音はご機嫌だ。

 ここに二代目小鹿ビームを放ちながら、二代目腹黒を引き継ぐ恐ろしい存在が誕生した。




 琴音にとって心臓に痛い邂逅があった後、やっと目当ての人物を見つけることが出来た。ヴァイオリンの演奏を少し離れたところから鑑賞する、藤色の着物を着た美しい女性だ。

「李苑様!」

 琴音の声に、李苑が振り返る。

「琴音ちゃん」

 ふわり、と春風のような優しい笑みを浮かべる淑女に、琴音は先ほどの心臓の痛みを忘れる程の心地よさを覚えた。

「ごきげんよう、李苑様!」

「ごきげんよう、琴音ちゃん。本日はお招きいただいてありがとうございます」

「うふふー、今年は藤家が主催でーす」

 玲音が隣から訂正する。一条隆明に向けていた黒い微笑みはどこへ行ったのか。思わずペロペロしたくなるような、砂糖菓子のように甘い微笑みを浮かべている。それを見てますます弟の将来が不安になる琴音である。

「まあ、そうでしたね。ごめんなさい」

 少しだけ肩を竦めて首を傾げる李苑は、本当に美しい。外国の血が混じっている肌は雪のように白く、綺麗に巻き上げられた亜麻色の髪は太陽の光で滑らかに光る。整った顔が微笑めば、春の花が競い合って咲き乱れる艶やかさだ。

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