麗しき星の花
「うんうん。どんなに強くても女の子です。心配ですよね」

「そうだな」

「では、大事な妹さんのために、頑張ってください、お兄様」

「分かった」

 何故か納得させられてしまった。

 リィが危険に晒される懸念があるというのならば、それを取り除かねばならない。シンは決意した。

 しかし一応、妹を溺愛している風に見えるシンにも、きちんと線引きしているところはあるわけで。

 隣にある好奇心いっぱいの輝く瞳は気になるし、眠っている相手になにかをするという行為も背徳感を連れてくる。

(なんだろなー、この後ろめたさ)

 いかに妹のためとはいえ、隠しきれない後ろめたさ。それに殴られるかもしれない恐怖が合わさり、さすがの鉄の心臓も打ち震えた。

「……ほっぺじゃ」

「駄目ですよねー。それじゃいつもと同じですもの」

 有無を言わさぬ、力のあるかわいい声に、シンは他の選択肢を諦めた。

 かつてないほどの緊張だ。それを抑えようと、ぐっと歯を食いしばる。

 殴られたくはないが、殴って欲しい。そんな複雑な想いを抱きつつ、吐息がかかるほど近づく。それでもまったく動かない妹に「お前何してんだ、殴れ、ほらー!」と心の中で叫びながら、もう桜の花びら一枚ほどの距離しかないほど近づいたところで。

 ぱしゃり、と音が響いて動きを止めた。

 視線を横へ向けると、スマホを構えた玲音がにこにこしていた。

「良い写真が撮れました」

「……え?」

「うふふ、見てみます? 淡く霞む桜色の景色の中で、眠る少女に切なげに近づく少年。胸を焦がす場面、ご馳走様です」

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