麗しき星の花
 身を低くしたまま軽くジャンプし、蹴りを回避したリィ。そこに更に中段の回し蹴りが襲い掛かる。これをテープの線ギリギリを側転しながら避け、常にシンを正面に捉え──。

「いない」

 はっとして天井を見る。

 強靭な脚力を持つシンは、ジャンプして天井まで跳んでいた。くるりと一回転し、天井に足をつけて、そこから床へ凄まじい勢いで跳ぶ。

 弾丸のように突っ込んできたシンを、体を捻りながら紙一重でかわす。ゆらりと体が傾いたところに、四つん這いで着地したシンの足が伸びてくる。

 リィはうまく重心を移動させ、静かな足どりでシンの足を飛び越えた。次にシンが手を伸ばしたときには、すでに正面を向いて迎撃体勢。続けて攻めてくるシンを避け続ける。

──常に体の軸を保つこと。そうすることで、どんな体勢からでも攻撃、防御が出来る。

 リィは両親の教えを忠実に守っている。一見するとふわふわしていて危なっかしいが、どの体勢になっても軸は常に中心にある。

 リィに触れられなかったことにムッとしつつも、シンは円の中心から攻撃を仕掛ける。


──歩法とは、自分を有利にする状況を作るためのもの。

 シンもリィも、足音を立てない。普段歩くときから、そうするように教えられてきた。静かに、流れるように歩くのは、敵に自分の位置を知らせないためでもあった。

──自分が戦いやすい位置を取り、相手が攻撃しにくい位置を取ること。

 相手の間合いに踏み込むのも、その間合いから逃げるのも、歩法によってだ。鬼ごっこはその辺りの訓練も遊びながら出来る。

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