麗しき星の花
 そんなことはありえない。

 そりゃあ、10歳までは一緒に入っていたけれども。

 お互いに等しく断崖絶壁な胸に、なんの感情を持つこともなく、毎日きゃっきゃと楽しく背中を流し合いっこ、頭を洗い合いっこしていたけれども。

 もう12歳。もうすぐ13歳だ。思春期に突入してしまった今、胸の大きさを見せ合うなど、絶対にありえない。

 だってアレは兄だ。

 今まで兄だったものと嬉し恥ずかしバスタイムは無理である。

 それなら風呂は別でもいいだろう、と普通は思うのだろうが、リィは今混乱中で、そこまで頭が回らないのだった。

「うう……どうしよう。だめって、言いそう……」

 認めなくてはならないという理性、兄を姉だと受け入れられないかもしれない不安な感情、そのふたつの狭間で揺れ動くリィ。



 そうしてどれくらい時間が過ぎただろうか。

「リィー!」

「リィファちゃん、見て見てー!」

「リィファさん、最高傑作が出来ましたわよ!」

 シン、南原、琴音が一斉に部屋にやってきた。

 不安げに寝室から顔を出したリィは、シンの姿を見て衝撃を受けた。

 長めの黒いワンピースにフリルのついた白いエプロン、頭には白いリボンのついたホワイトブリム。赤い髪は腰まである長さになっていて、緩やかに波打っている。その一部は左右の耳の上で小さなお団子に。

「ウチのメイド服で一番小さいのを着せてみたけど、想像以上にいい仕上がりでしょ? 妹の目から見てもかわいいと思わない?」

 南原は自慢の長い黒髪を揺らしながらリィに笑いかける。

「どうだ、リィ。女の子に見えるか? 俺だって分からないか?」

 両手を腰に当て、足を肩幅に開き、深海色の瞳をやたらと輝かせたシンを見て、リィは固まっていた。

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