麗しき星の花
 そしてその隣に座っていた父が、そっと母と額を合わせ、言うのだ。

 赦すよ、と。

 何度も、何度も。

 君が謝り続けるたびに、その罪の意識から逃れられる日まで、ずっと、ずっと赦し続けると。

 母の頬に両手を添え、流れ落ちる涙を指先で拭ってやりながら、父は普段よりもずっと低く、落ち着いた優しい声で語りかけていた。


 大きな大きな月が、2人を包み込むように見守っている。

 今にも落ちてきそうで、綺麗な色じゃなくて、見上げるたびに息苦しいと思っていた灰の月が、両親を包み込んでいる間だけは、とても優しく見えた。

 銀色に光る母の涙。

 淡い光を纏って、その涙を受け止める父。

 それを包み込む銀色の月。


 きれい。


 夢の中のようなそれは、まるで神聖な儀式。侵してはならない銀の聖域。

 だけど……痛い。

 あんな母は見たことがない。あんな父も見たことがない。こんなにも胸が締め付けられるのは、きっと夢じゃないから。


 どうしたの。


 扉から駆け出していって、そう声をかけようとした。そうしたら、くいっと手を引かれた。

「しー」

 いつの間にかシンが起きてきて、リィの手を引っ張っていた。口元に人差し指を当て、驚いて口を開くリィに静かにするように促す。

「シン、どうしよう。母さま、泣いてるよ。なにかあった?」

 哀しげにそう訊くと、シンは少しだけ微笑んで、無言でリィを引っ張って、自分たちが寝ていたベッドまで戻った。


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