麗しき星の花
 次の日。

 大きな大きな月が地平線の向こう側に沈もうとしているのをジッと見つめていると、ふわりと頭を撫でられた。

「月、見ても平気?」

 優しく見下ろしているのは母だった。昨日の泣き顔など微塵も感じさせない穏やかな顔の母に、リィはコクリと頷く。

「……母さま」

「なあに?」

「……母さまは、にゃんにゃん先生が、好きだった?」

「そうだね、大好きだよ」

「じゃあ、にゃんにゃん先生に似てた、おばあちゃんも?」

 母は少しだけ翡翠の瞳を見開いた。

 けれどもすぐに微笑んだ。

「大好きだよ」

「母さまの、大切な人?」

「そう。おばあちゃんも、おじいちゃんも、にゃんにゃん先生も……みんな、母さんの大切な人。大好きな人だよ」

 そう言う母の顔は本当に優しくて。リィの大好きな、あたたかい微笑みだった。

 祖父母が亡くなったのはリィも知っている。父方も母方も、どちらも。

 みんな大切で、大好きで、でも……亡くしてしまった。



 いつまでもいつまでも謝り続ける母に、それを赦し続ける父。それが何を意味するのか。考えるとチクリと心が痛む。

 それでも母は笑う。愛しむ優しい瞳で、祖父母を語る。

 そんな風に大切な人だから、愛しい人だから、それに似た人もきっと、とても愛しかったんだと思う。

 にゃんにゃん先生に会ったとき、もしかしたら母は傷を抉られたのかもしれない。また父を傷つけるのではないかと──途方もなく哀しくなったかもしれない。

 それでも、大切な人だと。

 母も、父も、その人は大切な人だと言って笑ったのだ。

 その人が生まれた国の言葉を、シンとリィはつけられた。

 きっと凄く想いが込められた名前なのだと思うと、リィは自分の名前を愛しく思うのだった。




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