麗しき星の花
 この庭はかつて、勇者フェイレイと星府軍元帥アレクセイ=ラゼスタが死闘を繰り広げた場所である。この回廊はそのときに破壊されてしまったのだが、今はその面影なく、綺麗に修繕されている。

 そして、回廊には常に大きな花瓶に花が生けられていた。花を手に、フェイレイとリディルが月に一度、必ずこの場所を詣でているのだ。

 最上級の戦争犯罪者であるアレクセイは正式に弔われていない。だから何故、勇者や皇女がいつもここに花を供えるのか、その理由を知る者は少ない。

 けれどもシンやリィは知っている。

 彼こそ英雄。

 彼が“あんな”無茶をしなければ、今頃きっと、この星は滅んでいた。

 本当ならば父や母と志を同じくし、共に戦えた人物であったことを。ちゃんと子どもたちは知っている。

 例え彼が、祖父母の仇であったとしても。

 敬いも、憎しみも、弱さ故の過ちも。すべて真実として受け止める。そうしてきた両親の下で育ってきた2人だからこそ、そうすることが出来る。


 父が討ち取ったアレクセイを弔う白い花をチラリと視界に入れ、2人は薄暗い回廊を駆け抜けていく。

 等間隔に立つ外灯には、まだ橙の灯りが点されている。

 その下を走りながら大雑把に作戦を決め、シンは腰の後ろから可変式の剣『アストレイア』を、リィは右大腿のサイホルスターから魔銃『クローリス』を引き抜いた。

 チラリと見上げた菫色の空には、薄く残る三日月が見える。

「なんとか正々堂々と奇襲をかけられそうだな」

「……シン、それは“卑怯”っていうんだよ……」

「えっ!?」

「宣戦布告をしないで攻撃したら、ずるいもん……」

「そ、そんな……そ、そうか……ぐ、う、う、う、う~」

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