麗しき星の花
 卑怯の二文字が頭の中を駆け巡り、唸るシン。

 けれどもやはり、奇襲以外に良い作戦など思いつかなかった。たとえ卑怯と言われようが、自分たちの信念を押し通すためには仕方ないと割り切るしかない。

 それでも。

「俺は卑怯者……くうう、卑怯者……うぐうううー」

 シンは『勇者』の息子であることを誇りに思っている。将来は自分もそこを目指すつもりでいる。それなのに、卑怯な振る舞いをしてしまうことになるとは。走りながら葛藤する。

 そんな兄を、妹は無表情に見やる。

「……迷うなら、やめよう」

「えっ?」

「迷ったまま戦っても、うまくいかないよ。作戦、練り直す?」

 リィの言葉に、シンは僅かな間足を止める。しかしすぐに走り出した。

「いや、覚悟を決める。俺たちが女王を召喚出来るようになったって、父さんはまだ知らない。今しか勝ち目はない」

「うん」

「一緒に旅に出るんだ。そうだよな?」

「うん」

 想いを確認し合う2人の足は、どんどん加速していく。

 心が決まったら、あとは力いっぱい踏み出すだけだ。





 東の塔へ入ってからは、所々に立つ衛兵たちに会釈をしながら早足で歩いていった。階段を上っていき、両親が泊まっているはずの部屋の近くからは、物音を立てないよう細心の注意を払った。

 やがて辿りついた扉の両脇に、背を預けて立つ。

 剣と魔銃をそれぞれ構え、顔を見合わせて小さく頷いた。

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