麗しき星の花
 その後、二人は拓斗とリィの待つ橘邸へ急ぐ。

「あの……車でなくていいんですか?」

「帰るときに通勤ラッシュに引っかかると開院時間に間に合わなくなるから、これでいいよ」

 そう言いながら走る聖。

 ……というか、跳んでいる。

 ビルとビルの間を軽々と飛び越え、住宅の屋根を跳び、電柱から電柱へ飛び移る。それも物凄く高速で、シンを肩に担いで。

「てか、師匠ってホントに何者なんですかっ! 父さん並に無茶苦茶だよあんた!」

 あまりのスピードに息が苦しいくらいだ。冷たい風に刺激され、深海色の瞳は涙目である。

 シンだってこんな何十メートルも跳ぶなんてこと、精霊の力がなければ出来ない。なのにこの人はそんな力を使っているようには見えない。このレベルの身体能力の持ち主ということだ。

「騒ぐな。誰かに見られたら通報される」

「か、帰りは? 帰りは明るくなるから交通量が違っ」

「大丈夫。シンくんがいない分、もっと速く行ける」

「マジでええええ!」

 まだ陽の昇らない早朝の住宅街に、そんな叫びが通り過ぎていく。





「おかえり、シン……」

 危険なランデブーを終えて橘邸に帰ってくると、眠そうな顔のリィに出迎えられた。彼女も寝起きが悪いので、起こすのはメイドさんに頼んでおいた。

「櫻井先生も、こんな朝早くからすみません……」

「いや、構わないよ。修行風景を見たいって言ったのは俺だからね」

 いつもの爽やかな笑顔で対応している聖を見ると、今朝の破壊の光を発する御仁は別人だったのだろうか、と思ってしまう。

 しかし、それにしても。

 なんだかリィの聖を見る目が輝いているのは気のせいだろうか……。

 リィとの会話を終え、拓斗と挨拶を交わす聖をぼーっと見つめるリィに首を傾げるシン。

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