麗しき星の花
 逃げて、追いかけて、逃げて、追いかけて。

 徐々に野菊の息は切れ、足も鈍ってくる。それでも前をゆくシャルロッテを追いかける。ひらりと舞う黒いローブを見失わないように、必死に追い縋る。

「どうしてわたくしを追ってくるのです」

 屋上まで辿り着いたとき、やっとシャルロッテは振り返った。夕方になり、身を切るような寒風が吹き荒れる屋上。白い息が2人を遮るように吐き出される。

「だ、って、泣いてた、から」

 息も絶え絶えに、野菊は言う。

「貴女などに心配をしていただく必要はありませんわ」

 不快感を露わにしてそう言うと、野菊は少し苦笑しながら「そうだよね」と頷いた。その邪気のない表情に少しだけ毒気を抜かれ、シャルロッテは肩の力を抜く。

「でもさ、ちゃんと言っておかないと、と思って。私はシンくんのことが好きだから。相手が皇女様でも渡したくないなあって思う」

「シンの妃になるということが、どれだけ大変なことか貴女は分かっていません。だからそんな風にあっけらかんとしてられるのですわ」

「んー、そっかあ。やっぱりそうなのかな。じゃあ色々教えてもらわないといけないよね」

 野菊の発言に、シャルロッテは軽く目を見開いた。

「宮中行事から、作法から、言葉遣いから……貴女に覚えきれる量ではありませんわ。わたくしだって、まだ及第点はいただけませんのに」

「じゃあ皇女様より頑張るよ!」

「貴女、ミルトゥワ語も話せないのではなくって? 魔力のない方は星の力が働きませんわ。言葉から覚えないといけませんのよ?」

「それは大丈夫! リィちんからちょっとずつ教えてもらってるもん」

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