麗しき星の花
 明るく言い放つ野菊に、シャルロッテは苦い表情を作る。

「覚えなければならないものは他にもありますのよ。言葉ひとつとっても、上の者に対してと下の者に対しては言葉遣いを変えないといけませんし、挨拶だって簡単ではありません。姿勢の矯正も必要ですし仕草も優雅にしませんと……貴女にそれが出来ますの?」

「う、ううん、面倒くさいね。でも、頑張るよ!」

 あまりにも前向きな彼女に、澱のようにドロリとしたものが胸の奥に溜まっていくのを感じた。だからつい、意地悪なことを口にしてしまった。

「貴女は本当に解っていらっしゃるのかしら。シンについてミルトゥワにいらっしゃれば、家族や友人とも離れ離れになりますのよ」

「えっ、でも、行き来は出来るでしょ?」

「簡単に考えないでくださいませ。わたくしやシンたちがこちらに来れたのも、すべて勇者殿とリディアーナ様のおかげですのよ。彼らがいなくなれば、貴女はこちらには永久に帰っては来れないのです」

「でも、シンくんとリィちんがなんとかしてくれるって……」

「そんな不確かな未来、信じますの?」

  野菊は押し黙り、視線を雪で濡れたコンクリートの上に落とす。その様子にシャルロッテは満足した。

「やっとお解りになりました? 大切な家族とお別れしたくなければ、シンのことは諦めてくださいませ」

「……分かった。腹をくくるよ」

 うん、と大きく頷いて野菊は顔を上げた。

「シンくんについて行くって決めたんだもん。こっちに帰って来れなくても我慢するよ」

< 451 / 499 >

この作品をシェア

pagetop