麗しき星の花
 これにはシャルロッテの方が慌てた。

「あちらには知り合いなどいませんのよ。それに魔族もいます。戦争の可能性だってある。皇族の一員となれば、命を狙われる危険もございます。護身の手立てを持たない貴女では本当に危険ですわ。ご家族が心配しましてよ」

「あれ、心配してくれるんだ?」

「そ、そういうわけではございません!」

 顔を赤くして声を張り上げるシャルロッテに、野菊はにぱっと笑った。

「大丈夫! ウチの家族、みんな懐がおっきいから、許してくれるよ」

「……こちらの世界を、捨てるというのですか」

「捨てるわけじゃないけど……。でも、私の一番大切な存在はシンくんだからなあ。シンくんが行くところならどこにだって行くし、傍で支えるよ」

 そう言う彼女の笑顔は、とても力強かった。とても敵わないと、シャルロッテに思わせるほどに。

  認めたくない。認めたくはないのに、決定的に自分に足りないものを、野菊の笑顔は伝えていた。

「……そうですか」

 小さくそう呟いて、野菊の横を通り過ぎる。そしてそのまま校舎内へと入っていった。

 その背中があまりにも頼りなくて、どこかに行ってしまいそうで、野菊は思わず呼び止めた。

「シャルロッテちん!」

 一瞬の沈黙の後シャルロッテ振り返る。

「……なんですか、その珍妙な呼び方は……」

「女の子はこう呼ぶのが決まりなの!」

「……変ですわ」

「えー、一応親愛の情を込めてあげたのに。じゃあ、ロッチー?」

「なんだか馬鹿にされているような気が致します。名前を呼ぶことを許しますから、普通にお呼びなさい」

「……じゃあ、ロッティ」

 リィが呼んでいるのを真似て言ってみると、シャルロッテは野菊を少しだけ睨んだ後、何も言わずに背を向けて歩き出した。

< 452 / 499 >

この作品をシェア

pagetop