麗しき星の花
 時間にすれば、そう長くはなかった。

 それでも双子にとっては永遠とも言える長い時を過ごしたかのような、激しい疲労が身体を侵食していた。

《……ここまでだな》

 風の女王の柔らかな手が、ふわりと2人を包み込む。2人とも、今にも崩れ落ちそうに目を虚ろにしていた。

「まだ……まだ、だ。父さんは降参してない」

 父は赤い髪をボウボウにし、口元から血を流している。広範囲にかかる大気圧の中では、筋肉も筋も骨も無事ではないはずだ。

 それでも倒れない。

 しっかりと子どもたちを見据えた深海色の瞳は、揺るぎない強さで輝いていた。こうなると根比べだ。どちらが先に倒れるかの。

「……シン」

 リィの声が震えている。シンは頭を揺らしながら妹を見た。

「ああ、もういい、寝ろ。あとは俺がなんとかする」

「……いや。最後まで、一緒に、やる。だっ、て」

 ガタガタと震えながら、リィは懸命に言葉を繋ぐ。その先は言わなくてもシンは分かった。彼も想いは同じだ。

 離れたくない。

 離れない。

 だから──倒れない。




 子どもたちの懸命な姿に、フェイレイは動き出す。その想いに応えるために。

 地面に足が食い込むほどの圧力がかかる中、ゆっくりと、足を前に踏み出した。鋭い風の刃がその足を切り裂き、身体が傾きそうになる。けれども倒れない。剣を杖代わりにし、ぐっと踏ん張って、また足を前に進める。

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