麗しき星の花
「……負けちゃった」

 小さく囁かれるその声に、シンもやっと状況を理解した。

 そうだ、負けたのだ。

 もしも勝てたら旅に一緒に連れて行くと言われていた。けれども負けてしまった。つまり、その時点で異世界行きが決定してしまったのだ。

「……まだだ!」

 シンはバッと飛び起きた。その勢いで後ろにひっくり返ったリィの腕を掴み、引き摺るようにして一緒にベッドから下りる。

「もう一回だ。まだ終わりにしない」

「……でも」

「一度負けたくらいで諦めるな!」

「……でも、約束、した」

「そんなの知るか! 女王だって何回か召喚していれば耐性が出来て楽になる。倒れなければ俺たちだって父さんに勝てる」

「……シン」

リィは強く腕を引かれながら、静かに言う。

「それって、どれくらいかかる?」

「……え?」

 寝室を出るドアの手前で、シンは振り返った。

「……女王の召喚。倒れないで出来るようになるまで、どれくらい?」

「そ、それは……」

「母様は、17歳のときに初めて女王を召喚して、倒れなくなるまで三週間かかったって、言ってた。同時召喚は、もっと、かかったって」

「……うん」

「シン、父様より、剣技が上手くなるの、あと、どれくらい?」

「……」

「……私、ヴァンより上手くなるの、あと、どれくらい? 陛下より早く動けるようになるまで、どれくらい?」

 シンは答えを返せない。

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