麗しき星の花
「あ……いや……別に、なにも……」

 持っていかなくて困るものはない。

 ずっと放浪の旅をしていた兄妹にとって、固執するような物はない。それがなんだか、無性に寂しかった。

「そうか。ホームステイ先のタチバナ家はかなり大きな所領を持っているらしいね。貴族なのかな? 住む場所も必要なものもすべて向こうで揃えてくれるそうだから、生活の心配はなさそうだよ」

「ふうん……」

「留学費用は十分な額が出ているはずだけれど、もし足りないようなときは勇者殿かリディアーナ様に言うといい。星を繋げば、手紙のやり取りくらいは頻繁に出来るそうだから」

「うん……」

 シンとリィは力なく項垂れる。

 乗り気ではない異世界の話を聞いても、気分は晴れなかった。


 間もなく給仕たちによって銀の皿に乗せられた朝食が運ばれてきた。卵をふんわり焼いたものと、細かく野菜を刻んだものが入った冷製のスープ、それにパンが何種類か並べられる。皇族とはいっても、朝食はシンプルなものだった。

「では、恵みをもたらす『ユグドラシェル』に祈りを」

 ルドルフの言葉に、シンとリィは目を閉じて両手を組み、神に感謝の祈りを捧げる。

 大地が豊かであるのはすべて唯一神ユグドラシェルのおかげであると、食事の際に感謝の気持ちを捧げるのがこの星での習わしだ。

 祈りを捧げて食事が始まっても、シンとリィの食は進まない。お腹は空いているはずなのに、食べ物が喉を通っていかない。

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