過保護な彼にひとり占めされています。
驚く自分の姿がその目に映っていることが分かるほどに近い距離。
微かに香った、甘すぎない爽やかなフレグランスの匂いに、また心臓はいっそう大きな音を立てる。
「俺はずっと、お前のこと女だって意識してるけど」
そしてそう呟くと、言葉の意味を問うより早くその顔は距離を詰めた。
ガタン、ゴトン……と揺れる電車の中、ひしめき合う人々の片隅でその唇はそっと近づき、優しく私の唇に触れる。
一瞬だけの、本当に軽く触れるだけの唇は、そのたったほんのすこしの瞬間にも関わらず、しっかりとその感触を印した。
「あい、ば……?」
なにが、起きたの?
理解出来ない状況に、気の抜けた声をもらす私にその目はじっと見つめたまま。
「村本のことが、好きだ」
真剣な表情で、呟いた。
好、き……?
え?
ていうか、今の……キ、ス?
『千川ー、千川です……』
その時車内に響いたアナウンスに、はっと我に返る。
「わっ!私!ここだから!じゃあ!お疲れ!!」
「あっ、村本っ……」
そして自分の茶色いトートバッグを両腕で抱き、人と人の隙間を無理矢理通り抜けると、逃げるように電車を後にした。
ホームを抜け、改札を出て、自宅までの徒歩7分ほどの細い道をヒールの低いパンプスでカツカツカツカツと足早に歩いて行く。
さきほどの出来事に対しての動揺を体に表すかのように。
な、ななな……なななっ……
なに、今の!!?
なんで!?どうして!?
相葉が私に、き、キスなんて……しかも、好きだ、なんてっ……
だって相葉はただの同期で、友達で、そんな対象として見たことなんてなくてっ……
なのに、それなのに
『村本のことが、好きだ』
えぇぇぇぇーーー!!!?