過保護な彼にひとり占めされています。



「……いくら人に言い寄られても、好きな奴に好かれないなら意味ないだろ」



そう。いくら他の人に想われようと、一番振り向かせたいのはたったひとり。

その目がこちらを向いてくれなければ、意味がないのに。



「それって、村本さんのこと?」



俺の頭の中に思い浮かぶ顔を、言い当てるように名前を挙げた翠に、つい驚きグラスを持ったままその顔を見た。



「知ってたのか」

「知ってるもなにも、あれだけベタベタしてれば分かるでしょ。寧ろ部署の人たちが気付いてないのが不思議なくらい」



あはは、と笑って翠は箸を置く。



「バーベキューの日にキスしてるのも見たし、クリスマスの日も……あの子と約束してるんだろうなって、すぐ分かった」



そう呟いた声はそれまでの明るさに反して、低く冷ややかなもの。

その言葉に、感じていた嫌な予感が当たっていることをさとった。



「……翠、聞いていい?」

「なに?」

「クリスマスの日から、あいつなんか変でさ。なにか知らないか?」



マスカラの濃い、長い睫毛の間から、丸い瞳がじっとこちらを見る。そしてふっと小さく笑うと、目の前のグラスへ手を伸ばした。



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