過保護な彼にひとり占めされています。



そうか。その言葉は、届かない想いのもどかしさ。

好きなのに、こちらを向かない瞳を振り向かせたくて。なにをしてでも、伝えたくて。

俺が村本を思うものと、同じもの。



翠はぶつけ足りない気持ちを堪えるように、細い指で拳をぐっと握る。けれど、その手に手を添えることは、できない。



「……ずっと、気づかなくてごめん」



ぼそ、と呟いた言葉に、泣きそうな顔の翠は唇を噛んでこちらを見た。



「そうだよな。片想いすると、自分の知らない自分を、抑えきれなくなるよな」



嬉しくて、幸せな気持ちばかりではない。自分の気持ちばかりが優先になって、ドロドロと、黒く嫌な気持ちも押し寄せる。

それほどに、好きだという気持ちは大きい。



分かる、分かるよ。

分かるからこそ、応えられない。



「けど、いくら翠が否定しても、俺を幸せにしてくれるのは俺が好きな人だけだよ。別になにをしてくれなくてもいい。ただ隣で笑ってくれるだけで、幸せなんだ」



翠は、俺を幸せに出来ると言い切った。

長い付き合いだから、きっと村本より俺のことを知っているのかもしれない。叶わぬ恋より、楽なのかもしれない。

でも、村本じゃないなら意味がない。



『相葉』



そう笑って、時々ドジをしてへこんで、また笑う。彼女だから、そばにいたい。



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