過保護な彼にひとり占めされています。



「……村本?なにやってんの」



不意にかけられた声にふと顔を上げると、そこにいたのは、伸びっぱなしの黒い髪に顎に無精髭を生やした男性……理崎さんだった。

白いシャツにデニムといったラフな格好に、眠たそうな二重の目、テンションの低いボソボソとした喋り方をしているものの、こう見えてもうちの部署を取りまとめる課長だ。



「理崎さん……おはようございます」



顔は赤いし髪はぐちゃぐちゃだし、廊下の端にしゃがみ込んでいるし、と散々な格好をしている私に理崎さんは不思議そうな顔で見た。

けれど特にそれ以上たずねることもなく「あ」と思い出したように言う。



「ちょうど良かった。今日これから午後まで手空いてるか?仕事頼みたいんだけど」

「あっ、はい!なんでもやります!!」



これはラッキー!

仕事があれば相葉と顔を合わせることもなく、気持ちを紛らわせることも出来る!



そんな思いから、立ち上がり元気よく答えた私に、彼は「そうか」と頷いた。



「んじゃ、打ち合わせの付き添い頼むわ。クライアントとどう話して企画立てるのか、今日も勉強してこい」

「了解です!で、誰の付き添いですか?」

「相葉。じゃ、よろしく」



って、相葉と!!?

相葉と顔を合わせたくなくて頷いたのに、相葉とふたりで打ち合わせなんて!

けど、今更『やっぱり嫌です』とは言えないし……!



そう私がまた頭を抱える間にも、理崎さんはその場を去って行ってしまう。



あぁもう、なんでこうなるの……!!

でも仕事ならば仕方がない。普通に打ち合わせについて行って、普通に仕事をして、すぐ戻る!余計なことは考えない!



そう、普通に、普通に……。



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