過保護な彼にひとり占めされています。
「っ〜……変態!セクハラ!!」
そんな相葉に、私は恥ずかしさを誤魔化すように、手元の紙やバインダーで、バシバシと相葉の頭を叩いた。
「いてっ!いてーって!」
「お前ら相変わらず仲いいなー……」
そんな光景を見ていた理崎さんの言葉に、他の先輩たちは「なにやってるんだよ」と笑う。
そんな中、ガチャリと開けられたフロアのドア。そこから姿を現したのは、打ち合わせから戻った名波さんだ。
「あ、名波さん。おかえりなさい」
「ただいま……はぁ、ありえない……」
ところが、いつもなら『ただいまー!』と元気よく入ってくる名波さんの顔はどんよりと暗く、疲労感を漂わせている。どう見ても、なにかあった様子だ。
「名波、なんかあったか」
同じくそれを察したのだろう。すぐに問いかけた理崎さんに、名波さんはその細長い指をした手で顔を覆いがっくりとうなだれる。
「悲報です……週末のちびっ子運動会、今になって予算が当初の半分しか集まってないことが判明しました……」
「えっ……えぇ!?」
それは、名波さんが受け持っていた案件である、地域の子育て団体主催の子供のための運動会・ちびっ子運動会についての嫌な知らせだった。
予算が当初の半分って……今更!?
「週末のって、今日金曜だから当日まで2日しかないですよ!?」
思わず声をあげた私に、名波さんはうなだれたまま頷く。
「そうなのよ……しかもこれまで『会場の飾りも景品とかも全部用意するから、そっちは会場の運営だけお願い』って言ってたくせに、今になってなにも準備してないことが判明して……」
「……予算がないからうちで準備してくれ、なんて言うんじゃないだろうな」
ぼそっとした理崎さんの声に、名波さんが言葉なく頷く。それを合図に、フロア内には社員全員の「えぇぇぇ!!!」と大きな悲鳴が響いた。
予算がない、準備もしていない、そして全部こちらへ丸投げ。
とんでもない事態に、悲鳴をあげるのも当然だ。