過保護な彼にひとり占めされています。
「か、構いませんけど……私に、出来ますかね」
「迷ってる時間はない。まずはラフ描いてそれを向こうに送って、OKが出たら下の会議室使って作業して」
そんな……看板を書くなんて、そんな大きな仕事をいきなり任せられるなんて。
出来るかな、大丈夫かな。
不安に思うものの、迷う暇もなく任せると理崎さんはその場を歩き出してしまう。
し、仕方ない……やるしかない!
そう吹っ切れたように、私は紙にラフを描きはじめる。
指示書にあるのは『ちびっ子うんどう会』と文字を書いて、その下に男の子と女の子の絵を書くというもの。
とりあえずそのまま描いて、メールで東郷さんに送って確認してもらって……。そう送ると、数分後には先方から連絡がきた。
「あっ、看板のラフ画のほう見ていただけましたか?」
『なにこの絵!伝えた要望と全然違うじゃない!!』
「えぇ!?」
ところが、迫力のある彼女のハスキーな声から伝えられたのはまさかの否定的な言葉で……。
「で、ですがこちらの指示書には、男の子と女の子が走っている絵と……」
『誰が人間の、なんて言ったのよ!男の子はクマで女の子はウサギに決まってるでしょ!?もう本当に察しが悪い!雰囲気ももっと明るく楽しく!わかってるの!?』
そ、そんな……!
理不尽にも感じるその言い分に、『そんなの知るか!』と言い返しそうになる。
けれど相手は社長の身内、それよりなによりクライアントという立場の人だ。そう思うと言葉を呑み込み、拳をぐっと握った。
「……大変申し訳ございませんでした。それでは描き直しいたしますので、確認も含めて再度ご要望をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
『えぇ、今度こそちゃんと描いてよね!』
そして再度女性からどんな看板がいいのか、要望を詳しく聞き、描き直したラフ画を送り、修正に修正を重ね描き上げること数時間……。
ようやくOKをもらいベニヤ板に下絵を描き終えた頃には、時刻はすでに夜19時をまわっていた。