過保護な彼にひとり占めされています。
「あっ、あとこれも……わっ!」
書類を1枚手に、振り向き動こうとすると、すぐ後ろにいたらしい人にドンッとぶつかってしまう。
見ればそこにいたのは、茶色い無造作な髪型をした、私より頭ひとつ以上背の高い姿。
白い丸首シャツにグレーのテーラードジャケット、黒い細身のパンツというすっきりとした格好をしたその男……相葉は、手元の書類からこちらへと視線を向けた。
「あ、悪い。小さくて見えなかった」
「なっ!」
『小さくて』、その言葉にムッとする私に、その顔はふふんと笑う。
「ていうか、もうちょっと落ち着いて動けよ。ハムスターみたいにちょこまか動いてないで」
「ハムっ……!?うるさいなぁ、そっちこそぼんやり立ってないでよ!ジャマ!」
「ぼんやり立ってないっつーの。ぼんやりした顔のお前に言われたくないんだけど」
ふたり顔を見合わせ口を尖らせると、子供のようにキーキーと言い合う。
そんな光景にフロア内の他の社員たちは『またやってる』と言いたげに呆れたように笑いながらこちらを見た。
この男は、相葉弘臣といって2つ年上の同期社員だ。
なにかと私に絡むような言い方をしてくる男で、それに対し私もかわいげなく反論してしまうものだから、こうして言い合いになることはもはや日常のこと。
周りは私たちを仲が良いと言うけれど、こういう関係をそう言うのか、正直ちょっと分からない。
「ふーん、そんな態度していいのかなぁ?折角先輩から焼き鳥屋の割引券もらったからおごってやろうと思ってたのに……仕方ない、名波さんとふたりで行ってくるかなぁ」
「えっ!?ずるい!」
「仕方ないよなぁ、ジャマな男におごられるなんてお前もイヤだろうしなぁ?いやぁ、残念だなー」
全く残念じゃなさそうな口ぶりで、ジャケットの内ポケットから割引券をチラリと見せて言う相葉に、私は「でも、けど、」と言葉を詰まらせる。
ずるい、私も行きたい、けどこの男相手に『ごめんなさい』なんて言いたくない。
そんな悔しい気持ちが顔に表れていたのだろう。私を見てその顔はふっとおかしそうに笑った。