過保護な彼にひとり占めされています。
「ここからペンキで色を塗って、乾かして、細かい修正をかけて……うーん、今日は徹夜かなぁ」
1階にある広い会議室の中、机を端に寄せて作ったスペースに広げられた大きなベニヤ板。
そこには、クライアントの要望通りのクマの男の子とウサギの女の子が楽しそうに走りゴールテープを切る絵が描かれている。
買い出し班の皆が買ってきてくれたペンキを開ける前に換気をしておかなければと、フロアの大きな窓を開けると、10月の夜の少しひんやりとした風が室内に入り込んだ。
「さむ……」
けどきちんと換気しないとペンキの匂いがこもるからなぁ……。
ツンとしたシンナーの匂いを想像し、私は着ていた黒いカーディガンの袖をぐっとまくった。
でも上のフロアでは、手の空いている皆が会場の飾りを作っているし……私も頑張らないと。大変なのは自分だけじゃないんだから。
気合いを入れたそのとき、コンコンとノックされたかと思えば部屋のドアがガチャリと開けられた。
「村本ー、どうだ?進んでるか?」
そこから姿を現した相葉は、様子をうかがうように部屋へと入ってくる。その手にはコンビニの白い袋を持って。
「相葉。こっちはまぁまぁかな、上の皆は?」
「皆ヒーヒー言いながら飾り作ってるよ。会場全体に飾る輪っか飾りに、入場門に飾る紙の花……あれもこれも作れって言うんだもんなぁ、キツすぎ」
業務に支障が出ても困るから、明日イベントが入っている社員は徹夜はさせられない。そんな少ない人手の中、名波さんを始め皆が悲鳴をあげながら作業に追われているのが目に浮かんだ。
「ま、理崎さんが『時間なくてもメシだけはちゃんと食え』ってさ。お前にも」
「わ、ちょうどお腹空いてたんだ!ありがとう」
相葉が差し出すその袋を手に取り中を見ると、そこにはコンビニで買ってきたらしいお弁当とお茶がふたつずつ入っている。
「……いや、さすがに私お弁当ふたつは食べられないけど」
「バカ。もう1個は俺のだよ」
そう言うと相葉は私が受け取った袋からお弁当をひとつ取り出すと、壁際に腰をおろして食事を始めた。