過保護な彼にひとり占めされています。
「って、相葉もこっちで食べるの?」
「悪いか?嫌なら上で食うけど」
「別に嫌じゃないけど……」
ここで作業を続ける私はともかく、上にいた相葉がわざわざ降りてきてこちらで食べるとは思わず、少し驚いてしまう。
「ひとりでメシ食っても美味くないだろ」
そのひと言から感じとるのは、相葉のさりげない気遣い。
食事のときくらいは、私がひとりにならないように。そう思って隣にいてくれるのだろう。
……こういうところも、優しいなぁ。
小さな嬉しさを隠すように相葉の隣に座ると、お弁当のフタを開ける。そして割り箸を綺麗に割って、少し冷めたのり弁を食べ始めた。
「それにしても、どこまでもワガママなクライアントだな。結局お前どれくらい描き直しさせられた?」
「ラフ画だけで5回近く、かな。その後色の組み合わせとか文字の形とかで合計10回以上……」
『どうしてわからないの!?』と電話越しに注文をつけて怒る東郷さんの声を思い出しながら苦笑いをこぼす私に、相葉は苦い顔をして見せた。
「そこまで文句つけられてよくキレなかったな。俺なら絶対言い返してる」
「まぁ、そりゃあ腹立つけどさ……でも自分の満足度が相手の満足度と同じとは限らないから」
おかずのコロッケをひと口食べながら言ったことに、相葉は意味を問うように首を傾げる。
「自分の見た目で否定されたらただ不快なだけだけど、出来上がりを見て否定されたなら、それが結果ってことなんだよ。だから、それでダメだって言われたなら、相手のイメージに添えるよう頑張るだけ」
そう。自分の見た目に『頼りない』と言われたのなら、腑に落ちず納得できない点もある。
だけど、例え理不尽な言われ方だとしても、出来を見て言われたのなら、それは自分の仕事の出来への評価だ。
それなら、うなずいてくれるまで、何度だって考えて希望に添えるようがんばるだけだ。
「相葉とは心折れてる経験が違うんだから。私のタフさなめないでよね!」
ふん、と誇らしげに鼻で息をした私に、相葉は少し驚いた顔をしたかと思えばふっと笑い、一度割り箸を置いて私の頭をわしわしと撫でた。