過保護な彼にひとり占めされています。
「はい、コーヒー」
「ありがとうございます」
受け取るコーヒーにはすでに砂糖とミルクが入っており、淡い茶色から湯気が漂う。
それに口をつけひと口飲む私に、名波さんは私の隣の位置にある自分のデスクに寄りかかり、立ったままコーヒーを飲んだ。
「いいよねぇ、仕事。楽しいよねぇ。仕事してると嫌なこと全部忘れられるし……」
遠い目をしてしみじみとつぶやく名波さんから察するのは、こうして仕事に逃避する言い方をする時は彼氏さんと喧嘩中で腹が立っているのだろうということ。
「どうしたんですか?また彼氏さんと喧嘩ですか?」
「そうよ!また喧嘩!女心がわからなすぎて本当に嫌になる!!」
やはりその通りだったらしい。
キィッ!と声をあげ、熱いコーヒーもグビグビと飲み干す名波さんに、私は苦笑いをこぼした。
そこに割り込むように、突然名波さんの頭をバシッと叩くバインダーを持つ手。
「いたぁ!」
黙っていれば美人な名波さんが、痛みと驚きに顔を歪めて振り向けば、その背後に立っていたのは気配なく近付いてきていた理崎さんだった。
今日も白いシャツにデニムといった緩い格好に、顎に無精髭をはやした理崎さんは、眠たそうな目でじろりと名波さんを見た。
「話してないで仕事。村本も、いちいちこんなのに構わなくていいから」
「仕事の合間に少し休むくらいいいでしょ!それにこんなのってなによ!ちょっと!!」
淡々とした理崎さんの言葉を、グワッと言い返す名波さんの声がかき消す。
名波さん、一応理崎さんは上司で先輩で年上でもあるのに……いつも通りの態度ですごいなぁ。
でも理崎さんもそれを特別気にする様子もないし、ふたりが仲がいい証拠なのだろう。