過保護な彼にひとり占めされています。
「わ、私は……いいよ」
「よくないだろ。人に聞いたんだからお前も答えろ」
うっ……。
確かに、相葉に聞いておいて自分は答えないのはずるいかもしれない。
歩き続ける中、広げたままでいたパンフレットをたたみながら小さくつぶやく。
「……私、子供の頃一回だけ引っ越ししたことがあるんだけど。引っ越し先の子が皆年下で、上手く馴染めなくて」
それは、幼い頃のこと。
私が小学校にあがってすぐという微妙な時期に、父の仕事の都合で引っ越すことになった。
けれど、その先で積極的に声をかけることができなかった自分は、なかなか友達が作れずにいた。
「その時にそこでお祭りがあってさ。そのお祭りを運営してたイベントスタッフの人が、周りに馴染めてない私を気に留めてくれて、星の形の飴をたくさんくれたの」
「飴?」
「うん。『みんなにもあげたら、みんなでおいしく食べられるね』って」
今でもはっきりと覚えている。
個装された、黄色い星の形の飴。そして、それを渡して私の背中を押してくれた、大人の女性のこと。
「緊張したけど、皆に配ったら喜んでくれてね。そこから友達が作れて、お祭りが終わる頃には沢山の友達が出来てたの」
「友達作りのきっかけをくれた、ってことか」
「うん。その時に、自分はもちろん友達も、お祭りに来てる人たちも、みんな笑ってるのがすごく印象的で……自分もこんなふうに、皆を笑顔にできる人になりたいって思った」
仲良くなれた友達や、お祭りにはしゃぐ大人たち、皆がこの場所で笑顔を見せている。それはきっと、自分ひとりでは見ることのできなかった景色。
私も、そんな景色を作りたい。
それがこの仕事を目指したきっかけ。
「……まぁ、現実はこの通りなんだけどさ」
へへ、と苦笑いをこぼした私に、その手は髪を乱すようにわしわしっと頭を撫でた。