過保護な彼にひとり占めされています。
「別にいいけど……俺的にはラッキーだし」
「ラッ!?なに言ってるのバカ!」
顔は右側へ向けられたままだけれど、ふざけたように言う相葉に、私はその背中をバシッと叩いた。
そこに続いて、近くのスピーカーから響く『キャー!!』という悲鳴。それにまたも驚いた私は、同じタイミングで「キャー!!」と悲鳴をあげてその場にしゃがみ込んだ。
「イヤー!こわいー!」
「忙しい奴。ただのスピーカーだろ」
「分かってるけど怖いの!びっくりするの!!」
本当なら先ほどのようにしがみついてしまいたい。けれど、また同じことになるのはちょっと困るし……。そんな思いからひとり堪えるようにしゃがみ込んでしまう。
そんな私に、相葉は呆れた顔で手を差し出した。
「え……?」
「手。つないでてやるよ」
それは怖がりな私へ、差し出してくれる手。
優しさに甘えるようにその手をそっととると、長い指は包むように私の手を握った。
手……大きいなぁ。
いつも頭に触れることはあるけれど、こうして手をつなぐのは初めてだ。
私の手をすっぽりと覆ってしまうその手は、ごつごつとしていて熱い。
力強く、だけど優しい手が導くように引いてくれる。その感触に、胸の奥がドキ、と小さく音を立てた。
そのままふたり、大きな迷路の中を迷いながら歩いた。
途中途中ガスや音、人形などの仕掛けに驚かされながらも、相葉の勘に従い歩くうちにようやく迷路は終わりが見え始め……。
ふと顔を上げると『出口』と書かれた看板が目に入った。
「あっ、出口!やったー!終わるー!」
それに安心し、ホッと胸を撫でおろしたその時。私の後ろを見た相葉は、なにかに気付いたように目を留めた。
「あ……村本、後ろ」
「へ?」
後ろ?
言われるがまま後ろを振り向くと、そこにはすぐ背後に立つ人影がある。
それは、片目が落ちかけ、血を口や頭から垂れ流し、臓器をずるずると引きずった人……そう、ゾンビで、それを間近で目の前にした瞬間サーッと血の気が引く音が聞こえた。