過保護な彼にひとり占めされています。



「あっ、いたいた!一花も井幡も丁度いい!」



その時、そこへ姿を現した名波さんは、カツカツとヒールを鳴らしこちらへと近づいてくる。

ゴールドと黒の派手なネイルを施したその指先は、手元の書類の束から紙を二枚取り出し、一枚を私にもう一枚を井幡さんに渡した。



「これ明日のタイムスケジュールね。バタバタするだろうから、事前に確認しておいて」



井幡さんと同じタイミングで紙を見れば、そこには明日のイベントのスケジュールが事細かに書かれている。

一番上のタイトルには、『秋の紅葉ピクニック婚活パーティー』の文字だ。



「あぁ。明日のイベントって婚活パーティーでしたっけ」



思い出したように言う井幡さんに、名波さんは頷く。



「えぇ。30代限定婚活パーティーで、屋外でピクニックしながらゲームして、って感じで。だから明日は動きやすい格好でね」



婚活パーティー、かぁ……。


結婚相談所が主催でうちが企画をする、婚活パーティー。

今は色んな形の婚活パーティーがあるけれどピクニック、というのがまた、企画をした名波さんらしいものだと思った。



そうタイムスケジュールの書かれた紙を見ていると、またもガチャッとフロアのドアが開く。



「あれ、皆して俺のデスクの前でなにしてるんすか」



それは一度席を外していた相葉で、自分のデスクの前に集まる私たち三人に何事かと不思議そうにこちらを見た。

ばち、と合った目と目に、感じるのは一方的な気まずさ。その思いについ顔を背けると、私は逃げるようにその場を去った。



「あれ、一花?どうかしたの?」



名波さんの声も聞こえないふりをして、フロアを後にする。



胸の奥にモヤモヤと込み上げるのは、相葉の想いを疑う気持ち。

どうして、とか、からかわれてる、とか。余計なことばかり考えて、こうしてまたいっそう分からなくなるよ。



心の奥のさらに奥では、『信じたい』と思う自分もいるのに。

心がふらふらと、戸惑ってしまう。






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