過保護な彼にひとり占めされています。
「新商品のアピールとして、親子参加型の試飲会……ミニゲーム大会も加えて、いいですね。盛り上がりそう」
そんな中、女性は企画に納得したように頷く。
「ありがとうございます。これならご予算も御社様からの指定の範囲内で収められるかと……一花、予算表ある?」
「あっ、はい!」
名波さんに言われ慌ててバッグの中を探る。
けれどあれこれ詰め込んだせいでなかなか出てこない書類に、いっそう慌ててガサガサと中を探ると、テーブルの上に置かれていたコーヒーのカップに手がぶつかり、それは床に落ちた。
「わっ!あっ!」
「あーもう、なにやってるの!すみませーん!拭くものいただけますか!」
幸いカップは割れなかったものの、床に飛び散るコーヒーに、私はさらにパニックになってしまう。
駆けつけすぐさま床を綺麗に拭いてくれた社員さんに深く頭を下げお礼を言い、再度席につくと、目の前の女性の顔は先ほどと打って変わって渋いものとなっていた。
「……名波さん、彼女、当日のイベントの参加スタッフに名前あります?」
『彼女』、と私を指して言う女性に、名波さんは不思議そうに頷く。
「え?あ、はい。私と村本、他スタッフが数名で会場を運営する予定ですが……なにか問題が?」
「見た感じどうも不安なんですよねぇ。こちらも費用をかけてイベントをやるわけですし、不安要素は取り除きたいというか……」
じと、と私を見る目は、今の私の慌ただしさから、当日私がドジをする姿を読み取ったのだろう。
不安だなんて、そんな。大丈夫です。
そう言いたいけれど、『絶対に』と言えるほどの自信はなく……。
「なので、彼女外して他の人ひとり入れてもらえます?」
容赦なく言われたひと言は、グサッ!と私の心の痛いところに突き刺さる。
そう、これが現実。
現実は、残酷で厳しいものだ。