過保護な彼にひとり占めされています。
「ちょっと昨日はいつもより飲みすぎたかも……気持ち悪、うっ」
「わっ!大丈夫ですか!?」
いつもよりひどいらしい二日酔いに、名波さんは今にも吐きそうな声で言いながら自分のデスクの上のクリアファイルをガサガサと探す。
「私……これから朝イチで打ち合わせがあって……行かなきゃ……おぇぇっ」
「え!?その状態でですか!?」
「だいじょーぶ……」
とは言うものの、クリアファイルを探しながらデスクに伏せるその姿は、どう見ても大丈夫じゃない。それどころか打ち合わせ場所まで行くことすらつらそうだ。
「私、代わりに行きましょうか?簡単な打ち合わせくらいだったらできますよ?」
「本当?じゃあお願いしようかな……これ、クライアントの資料……担当引き継いで初めての打ち合わせだから、今日は軽い顔合わせくらいのはず……」
そう名波さんは書類の入ったクリアファイルをひとつ手渡す。
いつもなら『二日酔いごときに負けるか!』と譲らない彼女がすぐ折れるあたり、きっと本当につらいのだと思う。
「でもひとりで平気?不安だったら相葉か井幡か付き合わせて……」
「い、いえ!大丈夫です!ひとりで行けます!」
ひとりで打ち合わせは不安だけど、今相葉に頼るくらいならひとりでも大丈夫。
そんな気持ちからうなずくと、私はクリアファイルを受け取り、一度置いたバッグを再度手にすると「いってきます」とフロアを出た。
「打ち合わせ場所は、駅前の喫茶店……すぐ近くだ」
廊下を歩きながらクリアファイルの中にある資料に目を通して、クライアントの情報を確認する。
山野フーズ……食品会社か。取引自体は前からあるところで、今までのうちの担当は佐藤さん。彼が急遽退職したことで名波さんに担当が回ってきたというわけだ。
普段は誰かの付き添いとして行く打ち合わせ。成り行きとはいえ、こうしてひとりでいくのは初めてだ。
落ち着いて、冷静に……使いそうな書類はすぐ取り出せるように用意しておいて、飲み物は倒さないように気をつける。
「……よし、」
頑張るぞ。
握った拳に気合いを入れて、私は打ち合わせ先へと向かった。