過保護な彼にひとり占めされています。



これは、断るべきだよね?

でも断ったことで、会社に戻ってからあることないこと言われてクレームになったらどうしよう……私みたいな半人前が事実を話しても『これだから村本は』って信じてもらえないかもしれない。

でも教えるのも嫌だし……個人的に関わってトラブルになっても困る。



ど、どうしよう……!!

どちらを選べば正解なのか分からず、必死に頭をめぐらせる。



こんなことならひとりで来るんじゃなかった。初めての打ち合わせ相手はどんな人かなんて分からないんだから、尚更だ。

……今更後悔しても遅いけどさ。

私の頭の中の苦悩など知る由もなく、目の前の松永さんは微笑む。その手はまだしっかりと握られたまま。



これはもう、諦めて連絡先を教えて、あとはどうにかこうにか流すしか……。

そう一番楽そうなほうへ流れようとした、その時。



「お待たせしました!!」



その大きな声とともに、バン!とテーブルを叩いた手。

驚き顔を上げると、そこにいたのは相葉。息を切らせ、額にじんわりと汗をにじませた相葉は、必死な顔で私を見た。



「相、葉……?」



なんで、相葉が?

驚く私になにかを言う前に、その目は私から目の前の松永さんへ向けられる。



「予定変更で名波から新しく担当になりました、相葉です。よろしく」



にこ、と笑顔を見せるものの、その目はまったく笑っていない。

そんな相葉に、まさか突然男が現れるとは思ってもみなかったのだろう。松永さんは驚き、焦り、一気に冷や汗をかきはじめる。


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