過保護な彼にひとり占めされています。
その夜。会社から徒歩数分先の駅前にある焼き鳥屋は、今日もサラリーマンや若者の声でにぎわっていた。
壁際の小さな4人掛けの席で、ひとりズーンと沈む私を除いて。
「おーい、村本ー。元気出せって」
「ほっといて……どうせ私なんて……不安要素ですよ……」
「ダメだ、完全にひねくれてるわ」
私の隣に座り声をかける相葉に暗く返すと、向かいに座る名波さんは呆れたように苦笑いをこぼした。
「なに落ち込んでるんだよ。『見た目が不安』なんて初めて言われたわけじゃないだろ?」
「初めて言われたわけじゃないから落ち込んでるの!バカ!」
「バカとはなんだ、バカとは!」
傷口に塩を塗るような言い方をする相葉に、フンッとふてくされたように、ジョッキの中のビールを飲んだ。
……まぁ、そうだけどさ。
『不安』も『私以外で』も、初めて言われたわけじゃない。それもこれも、私のドジが悪いんだけど……。
「まぁまぁ、一花。仕方ないって。向こうだってお金かけてイベントやるんだから絶対成功させたいって一心で、悪気があって一花を外したわけじゃないんだから」
励ますように笑う名波さんは、その折れそうな細い腕で、大きなジョッキを片手でたくましく持ち上げてビールを飲む。
「まぁ確かに、村本は若く見えるから経験も浅そうに見えて頼りないし、ドジも多いし……おまけにクライアント目の前にするとすぐテンパって、少し言われたらそうへこむし」
「うっ……」
けれど続いて言われる相葉の言葉は耳に痛く、聞きたくない、というように私は耳を塞いだ。
そう、クライアントは決して少なくはない費用をイベントのためにつぎ込んでいる。
企業となれば尚更慎重になるもので、売り上げに直につながるイベントは絶対に失敗出来ないのだ。
その中で私のような、ミスも多く頼りない存在がいれば、『外してくれ』と頼みたくなるのもまた当たり前と言えば当たり前で……。
本当に、自分の出来の悪さがいっそう身に染みる。