過保護な彼にひとり占めされています。
「おはよー、一花!相葉も!」
やってきたオフィスは、渋谷の片隅にある小さな一軒の建物。
そこでフロアのドアを開けた俺たちを出迎えたのは、先輩の長身美女・名波さんと、無精髭を生やした上司・理崎さんだった。
広告代理店の部署のひとつ、とはいえ後から新設された形のこのイベント企画部。本社ビルに空きフロアがないことやイベントの準備や荷物の搬出作業などが多かったりもすることから、あえて本社から少し離れた位置に専用のオフィスを構えたのだそう。
……まぁおかげで、理崎さんより上の上司たちは普段は本社にいるから、窮屈さややりづらさもなく、皆のびのびと仕事が出来ているわけだけれど。
「おはようございまーす」
いつものように小さく頭を下げて言うと、名波さんは相変わらずハキハキとした口調で思い出したように言う。
「あっ一花、来て早々で悪いけど手伝って貰いたい仕事があるの!いい?」
「えっ、あっ、はい!」
出勤してきてすぐの仕事の話に、村本は戸惑いながらも名波さんについてフロアを出て行った。
男の多いうちの部署の、数少ない女性陣の中でも一番背の高い名波さんと一番背の低い村本が並べば、まるで大人と子供のよう。
せかせかと歩いて行く後ろ姿を見つめていると、俺とともにその場に残された理崎さんは同じくその光景を見送り視線を俺に向ける。
「仲直りしたのか。よかったな」
「えっ!?」
唐突なその言葉に驚く俺に、その眠たそうな一重の目は表情を変えずこちらを見た。